症例検討会の思い出

「俺と付き合ってよかったことは?」
「私が取り上げた赤ちゃんを最も信頼できるドクターに任せられる」
「他には?」
「症例検討会で忌憚ない意見をもらえる」
「それは付き合ってなくてもする」
「たしかにね。このまえうちの若いのがあなたにボコボコに突っ込まれて泣いてましたし」
「俺だって一年目の死亡症例でおまえにボコボコにされたの今でも夢に見るからな」
「…そんなことありました?」
「ありました。それよりなんかもっとこう、ねえの?恋人が俺でよかったな、っていう…」
「……抱っこがうまいとか?」

本田先生こういうこと言う…

「私症例検討会でボコボコになんてしたことあります?」
「正確にいうとボコボコにしてきたのは当時の産科部長で、あのクソパワハラハゲが俺が挙げた症例について重箱の隅をつつくように責任追及した挙げ句資料の準備不足を指摘してきたんだよ」
「あ~たしかにそんなことがあったかもしれません。でもそれって私になんの関係が」
「その後話を振られたおまえがこっちを横目で見ながら『まあ彼はまだ若いですから』って言っただろ」
「かばってるじゃないですか」
「はあ?自分の童顔を思い出せよな。見学にきた医学生と見分けもつかないおまえにんなこと言われて俺のプライドはボロッカスだよ」
「でも、ほら、あの、次の検討会でたしかすばらしい資料を用意して新生児の呼吸合併症について症例をあげてませんでした?あれは胸部外科チームも感心してました。よく覚えています。逆境をばねにしてがんばって…」
「それを検討会のあとわざわざ俺に直接言ってくれたよな」
「…それでその前の怒りはしぼんでいった?」
「まさか。テメー何様だよって思って」
「な、なにさま…」
「すげえむかついて」
「むかついて…」
「そしてまんまと惚れてしまった」
「……なぜ?」
夢にまで出てきたから

アーサーさんの「テメー何様だよ」から入る恋、すごく好き(好き)

「てめー何様だよから惚れたんですか…」
「そう。頭から離れなくなって」
「でもその理論だと産科部長の○○さんにもまんまと惚れてないとおかしくないですか?」
「ちゃんと聞いてたか?俺はおまえに対しては『テメー何様だよ』と思ってそのあとおまえを夢にまで見た。あのクソパワハラハゲに対しては『クソパワハラハゲ』としか思ってないしさっさと脳内から消し去った」
「いったいどこに分岐が…」
「素晴らしかったです、とても勉強になりました、って言ってくれたところじゃないか?」
「でもそれに対してもてめー何様って思ってたわけですよね」
「キクは飴と鞭が絶妙なんだよ。いつでも」
頭から離れなくなるんだ

アーサーさんの家にお泊りした次の朝「ゆうべおまえが夢に出てきた。夢の中にまで会いにきてくれるんだな」ってキスしてくれてロマンチックで幸せいっぱい…ではあるけど「昨日うなされてたのはそういうことだったのか…」って本田さんが思ってたら笑う