孤独に立つ

「アーサーさんが思うクラブの楽しさってなんですか?」
「あそこは夜遊び好きのディズニーランドみたいなもんだから」
「…?」
「ゲートをくぐれば日常を忘れられるし死ぬほど遊んでハイで帰って何も考えずに泥のように眠れる」
「…人生に悲観してるんですか?」
普通に同情されてしまった

「酒の種類は多いしダンスミュージック嫌いじゃないし。…それにあそこでは絶対に一人にはならないしな」
「………」
「だから最近は全然行ってない」
今はもう独りにはならないから

「あとvipルームってあるだろ、おまえとクラブに行ったときよく使うなんか他とは違う空間」
「ちょっと離れた静かな席?」
「そうそう。あそこの空気が好き。落ち着いて酒が飲めるしナンパは確実に成功するし、あそこから下界を眺めながら飲む酒はうまい」
「…人間に愛想が尽きてる?」
めっちゃ同情される


「おまえが思うRTAの楽しさってなに?」
「うーん…あれは結局自分との戦いなんですよね。一応世界記録とかありますけど、やっぱり自己ベスト更新が一番うれしいし、自分より優れた記録を見てるとまだまだ自分もやれるはずだとわくわくします」
「アスリート思考だなあ」
「走ってるときはすごく孤独なんですよね。応援してくださる方はたくさんいらっしゃって、それはもちろんありがたいんですが、ガバったときに今回はもうだめだと思うかまだ挽回できると思うか、好タイムのときにリスクの高い技を使うか安定を取るか…そういうことを決めるのは自分ですから。自分がやったこと、やってきたこと、判断したことが全部記録につながると思うと、そのプレッシャーに燃えますね」
って話す本田さんに「ふーん」ってアーサーさんは答えるけど、自分の孤独を打ち消してくれたこの男は常に俺を置いていまだ孤独に身を置いているのだと思うとちょっと寂しい気がする

孤独を分かち合えたらいいのにたぶんRTAという分野においてそれはできないし、
記録を打ち出せば日々の努力を認めてやりたいのにそれができるのは本人だけなんだよね

「おまえかっこいいよな」
「かっこいい…ですかね?あんまり他の界隈の方には理解されがたいジャンルだなとは思うんですけど」
「いや考え方が。孤高だなって」
「それほめ言葉ですか?」
「うん」
崇高な男だなと
(※理解したがい部分は否定していない)

「アーサーさんのほうがかっこいいですよ」
「そうか?」
「だってvip席でソファに座ってたとき足組んでも収まり悪くて果てしなく長い足だなと思ってみてたし…」
「あのとき俺の下半身ガン見してるなと思ってたけどそういうことだったのか…」
「すみませんバレてましたか。失礼でしたね」
「ヤりたいアピール露骨すぎるだろコイツってすげえムラムラしてたのに」
「アーサーさんって私に対してすごくポジティブですよね基本」
なんだその解釈は

「褒めるとこ足だけかよ」
「いえ他にももちろん、お顔も滑らかなグラフィックだなといつも思いますし」
「グラフィック?」
「タバコ吸っていい?のあとに火をつけるときのあの伏し目とかすごく性癖にブチ刺さります」
「性癖…?」
ブチ刺さる…???

「性癖にブチ刺さるってなに?」
「あの…それは………ムラムラするということです」
「……………タバコ吸っていい?」
ブチ刺したい

「タバコ吸うやつあんまり好きじゃないと思ってた」←本田さんの前では極力我慢してた人
「そうですね…タバコ吸ったりピアスを開けている人とは住む世界が違うと思ってたんですけどどっちもブチ刺さってしまいましたね」
「ピアスも?痛そうとしか言ってなかったじゃねえか」
「それは輪っかのやつですよね?違うんですよ、この前はじめて気づいたんですけど、後ろから見たときにあの…ピアスのピン?を留めるところあるじゃないですか」
「キャッチのこと?」
「キャッチっていうんですか。そのキャッチの部分が刺さりました」
「うん…??」
おまえの性癖わけわかんねえ

それから毎日キャッチ式をつけるようになるのがアーサーさんのかわいいところ
意図してブチ刺していきたいけどどうやらよくわからんところが刺さるらしいからちっとも戦略練られないアーサーさんもかわいい

タバコ吸うやつあんまり好きじゃないのかなと思って極力我慢してたけど、完全にやめるわけじゃなくて、やっぱりどうしても我慢できなくないときは許可とって吸う、ってのがいいなと思う
100%我慢しなきゃいけなかったらこの関係は続けられないってアーサーさんも自分の性格をわかってるところがいいですね
キクのことは好きだしできることなら合わせたい、っていうか嫌われたくないけど、我慢ばっかりして取り繕っててもいつかは破綻するってわかってるし、
タバコやめて、ピアス嫌い、クラブ行かないでって口出してくるようならきっと幻滅するだろうってわかってると思う
アーサーさんが本田さんのこと好きだなって思うのは、住む世界が違うと思いながらもタバコやめてほしいとかピアス嫌だなとかクラブ行かないでほしいとか言ってこないところ
そしてたぶんそれは本田さんが「ほんとは嫌なのに我慢してる」んじゃなくて、ただアーサーさんを尊重してくれてるのであって、だからアーサーさんも本田さんのこと生き方を尊重しようって自然に思えるんだとおもう

アーサーさんは自分だけが譲ってるとか自分だけが我慢してる状況(言ってしまえば「自分だけが損してる」状況)には堪えられない人だと思うんだけど、本田さんと付き合う上ではそんな風に感じないで尊重できるってのがアーサーさんにとってはでかいと思う
そういうのが続いて、心から自然と「こいつのために生きたい」と思えることに気付いたからプロポーズに至ったんじゃないでしょうか
そういう関係性がすきです