出番がなくても

「今度うちの助産チームが地域のマタニティクリニックに研修にいくんです」
「クリニック?都内で一番設備が揃った周産期科にいて毎日あらゆる症例目白押しだってのにクリニックでなにを学ぶんだよ」
「そううちは毎日あらゆる症例目白押しですからね。基本紹介制ですし。正常な経過をたどった分娩の経験が極めて乏しいんですよ。予定分娩で健康な赤ちゃんを取り上げる機会が少ないんです」
「それでクリニック?なるほど俺たち新生児科医の出番が全くないとこな。俺には無縁だ」
「そうとげとげしなくてもいいじゃないですか。健康な児を取り上げるのもすばらしい経験ですよ」
「でも実際健康な児ばっかりだったら俺は職を失う」
「またそんなこと言って、保育器用意して待機してるところでアプガースコア良好の啼泣さかんな赤ちゃんが生まれたらうれしそうな顔するくせに」

元気いいなあって目を細めて