出会わなければよかったかもな

「…今だから言えるけど、別れたときに言った『おまえに声をかけたことが人生最大の過ちだった』っていうの、売り言葉に買い言葉でもなんでもなくて本音だった。もっと言うと今も本気でそう思ってる。出会わなければよかったかもなって」
「…………それ今する話ですか?あんな…あんな風にしたあとで?ほんのついさっきまで私のことを愛してるって言ったその口で?普通に傷つくんですけど」
「いやなんでだよ。誇れよ」
「どう誇れと」
「おまえに出会ってしまったがために俺はもうめちゃくちゃなんだぞ。出会わなければよかったかも、声をかけなければよかったかも、って言いながら毎日出会った日のことを思い出してる。こんだけ俺の思考に居座っといてそれを誇るどころか傷ついたとは何事だよ」
「……えっもしかして今の『甘いピロートーク』のつもりだったんですか?」
解説がないとさっぱりわからん

「で、俺の熱烈なピロートークに対するおまえの意見は?」
「えっ…そうですね…えーと…アーサーさんの今のお話から、水面にうつった月を眺めたり、御簾越しに歌をよんだり、そういった風情を感じました。かつて別れたときの私の心境と致しましては、大伴さんではありませんけれども、まさに『なかなかに黙もあらまし何すとか相見そめけむ遂げざらまくに』といったものでして。きっとおわかりいただけるでしょう」
「いやわからん」
解説をくれ
(「大伴さんってだれだよ…」)

「なかなか…なに?」
「なかなかに黙もあらまし何すとか相見そめけむ遂げざらまくに」
「歌?」
「ええ」
「どういう意味?」
「『どうして声をかけてしまったのか。はじめから逢わないほうがよかった。想いが遂げられないのなら』」
きっとおわかりいただけるでしょう