めちゃくちゃにしてほしい

「今夜はいつもより激しくしてほしいです。できればめちゃくちゃに」
「だめ」
「…ですよね」
「……って俺が言うことをはじめからわかってただろ。5回に1回はこの会話をしてる。おまえはもう慣れきってるし、はじめて俺にそう頼んできたときは耳まで赤くして蚊が鳴くような声で『決死のお願い事』をしてきたくせに今となってはただのルーチンワークだ。ダメ元で言ってみて、やっぱりダメだった、そうですよね、アーサーさんは優しいからなあ、までがワンセット」
「恥じらいがないからだめなんですか?」
「いや、俺を優しい男だと思ってるところがだめ」
って押し倒してくる

「昨夜はどこでスイッチが入ったんですか?」
「ん?」
「後学のために知りたいです。昨日とまったく同じように誘っても次はきっと『ダメ』って言うでしょう」
「そうだな」
「じゃあどうすれば私はまためちゃくちゃにしてもらえるんですか」
「そのめちゃくちゃにされたい願望はなんなんだよ。普通のセックスじゃ不満か?」
「不満…というか」
「気持ちよくない?」
「よくないわけではないんですけど…」
「じゃあいいだろ。俺はおまえがベッドの上で気を失うようなのは嫌だよ。心臓が止まりそうになるから」
「でも私は…何というか…遠慮しないでほしいというか…ありのままのアーサーさんを受け止めたいと言いますか」
「めちゃくちゃなセックスをしない俺もありのままの俺だろ」
「…私はめちゃくちゃなのも好きですし」
「そういうのはたまにだからいいんだよ」
「たまにって100年のつきあいで昨日が2回目ですよ。1回目は50年くらい前に復縁したとき」
「じゃあ次はまた50年後だな。お楽しみに」
「…………」
「なんだよその顔は」
「……『アーサーさんは優しいからなあ』?おこがましいにも程があります。私の本音はこう。『アーサーさんはけちだからなあ』!」
「はははは」
100年のつきあいのしまぐに大好き