あやすのがうまい

「赤ちゃんをあやすの、お上手ですよね。新生児なんて認知能力もそこまで発達してないはずなのに、あなたが声をかけるとぴたっと泣き止むことが結構あるじゃないですか」
「天職なんだよ」
「…私は赤ちゃんを産んであげられないからなあ」
「…………は?」
「赤ちゃんが好きで仕事にまでしてるのになんだか申し訳ないなと思いまして」
「……あのさ、たとえば今俺が『キクは婦人科の医者だけど俺は女にはなれないからなあ』とか言ったらどう思う?」
「笑っちゃう」
「なんで」
「だって別に、あなたを診察したいわけじゃないですし」
「ああよかった話が通じそうで。別に俺だってキクが新生児じゃなくても好きだよ」
「でも新生児を産めたらもっと好きになるんじゃないですか?」
「そうかもしれないけど、じゃあキクだって俺がハリウッドスターだったらもっと好きになるかもな」
「……そんな突拍子もない話してます?私」
「してる」
「もしかして怒ってますか」
「少しな」
「ごめんなさい。ただ少し…ふと、そう思っただけで。軽率でしたね。口には気をつけます」
「思慮深いキクが俺の前だと『ふと思ったことをぽろっと口にしてしまう』って点を今回は評価して許すこととする」
「あやすのうまいなあ」

憂鬱も消えていく